先日のこと。
「はい、宿題です!」
私の目の前にやって来て、
(私が見ることができるように)
テキストを両サイドに引っ張って、
私の確認の意志表示を待っているのは、
小学5年生のHちゃんである。
数ヵ月前に入塾してきたTちゃんは、
いずれ中学受験をする。
塾に入ったのは、
もちろん中学受験の合格のためだ。
北斗塾に入ったということは、
「自立型個別指導」を受けるということだ。
だからTちゃんは自力で黙々と、
問題をこなしていく。
この訓練をずっと受けているのだが、
ようやく先月から次のフェーズに突入した。
ただ単に学習を進めるだけではない。
思考力を伸ばすための訓練、
その段階に入ったのだ。
「思考力」とは何か?
それは他人(講師)から教わることでは、
伸ばすことがなかなかできない。
もちろん、
生徒の「思考力」を伸ばすことができる、
達人級の先生(講師)は当然いるだろう。
だが、
大学生のアルバイト講師にはムリだ。
その技術は高度なものだからだ。
要するに「どう質問するか」。
そういうことなのだが、
この技術にはコーチングの技術がいるため、
簡単ではない。
しかも、
そのコーチングをする人間には、
高度な国語力が求められる。
よって、
「うちもコーチング指導、できます」
などと言う塾長(講師)が出てきても、
ふだんのその人の言動を見てみると、
とてもできるレベルではないことが、
わかることもしばしば。
よって、「言うだけ」となる。
言うだけなら、誰でもできる。
さて、小5のTちゃん。
毎回見ているのだが、
前髪がきちんと横一線に整っている。
「Tちゃん、その前髪って、美容室?」
「違います!」
「え、まさか自分で?」
「違います、お母さんです!」
「あ、そうか…そうだよね、ハハハ」
「お母さんがいらなくなった紙を持ってきて…」
「うん」
「私の胸の前でこういう風に横にして…」
「ああ、なるほど」
「前髪を切ってくれるんです」
「あ~、そうなんだ、いいね」
「はい」
「いつもきれいに整っているもんね~」
「ありがとうございます(笑)」
ちょっと照れたような表情になったけれども、
くるっとその場で一回転して、
私の前から小走りで去っていった。
「そうか…、お母さんか」
かわいいわが子の前髪を、
ていねいに少しずつ切っていくのだろう。
いいね。
母親の娘への愛情の表現方法は、
いろいろあると思うけれど、
小学生の女の子の整った前髪に、
その想いが表現されていたという事実に、
このとき初めて気がついた。(遅い!)


