「塾長…、3月で塾を辞めます」
私のいる部屋に入って来たTくん。
中3生だ。
とても残念そうに私に言ってきた。
「お、やはりそうなった…か」
「お父さんが『ダメだ!』って」
「うん、うん…」
今にも泣き入りそうな表情を見て、
「こんな辛そうな顔をするんだ…」
と私は内心…、驚いていた。
Tくんが本気で勉強しだしたのは、
部活動が終わってから。
市の大会は団体戦で勝ち残ったため、
県大会に進出。
結局のところ、
本気で受験勉強に取り掛かったのは、
9月に入ってから。
それから中学1年生の内容を、
本格的に開始。
それで、現在に至る。
ずっと本気を出さなかったTくん。
部活動が完全に終わってからは、
目の色が変わった。
でも、
体と頭がついてこない。
勉強一色の習慣が今までないから。
ようやく秋も終わるころから、
受験生の状態(心身とも)になった。
が、学力がつくのには時間がかかる。
それでも模試の成績は上がってきて、
工業高校には合格しそうな状態になった。
でも、
本命は普通科のある宮崎M高校。
今日志願倍率が発表されて、
第1志望だったところが「定員割れ」。
「そこ、受けたかったです…」
沈痛な表情を見せるTくん。
Tくんの将来の夢は、
宮崎大学工学部に進学すること。
とにかく大学に進学したい。
「宮崎工業高校に入ったら1番を目指す」
それが今の彼の目標である。
塾は続けたかった。
でもお父さんが許さない。
「工業高校に行くなら塾は行かせない!」
Tくんの訴えもむなしく、
お父さんが決断。
それで私に報告となったというわけ。
「塾を辞めたくないです」
「しょうがないだろ、もう」
「とにかくココがいいんです」
「Tくん…」
まさかTくんがこんなにも、
北斗塾のことを想っているとは…。
知らなかった。
私はちょっとした感動すらおぼえた。
「じゃあ、部活が終わる前から本気で勉強…」
と内心そのときに思ったのだが、
そのセリフは言わなかった。
今それを言ってもしょうがないから。
「この塾がベスト◎〇▼◎×▽なんです」
「Tくん…」
ん、ベスト◎〇▼◎×▽って何?
最後の方がよく聞き取れなかったが、
そこはまあ…よしとして…。
「とにかく工業に入ったら頑張ります!」
「おお、そうか」
「勉強頑張ります!」
「おお、そうか」
「1年の終わりまでにはトップになります」
「おお、そうか」
「そのときに戻ってきます!」
「おおっ、そうか!」
「とにかく他の塾じゃダメなんです!」
「おお、そうか(Tくん…)」
「ベストポジションだから…」
「おお、ん? ポジションって何?」
「工業から自宅に帰る途中にあるんすよ」
「え、何が?」
「ここ(北斗塾)です」
「何、それが1番の理由なの!?」
「はい、そうです!」
こうしてTくんとの会話が終わった。
(今日の塾での1コマ)